蔡英文総統が2016年5月に誕生して、はや一年が経過しました。就任当初は国民からの圧倒的な高い支持率を誇っていました。最近の調査では支持率が30%を切り、28%まで低迷したと報道されています。
この支持率低迷の要因は、大きく分けて国内問題と国際問題に起因するものに分けられます。私が台湾現地で肌感覚で感じる実感としては、どちらかと言うと国内問題の対応が後手に回っていることに対して、国民からNOを突きつけられているように感じます。
ところが今回は、台湾国内問題ではなく、台湾の国際問題に関して蔡政権樹立後に起きた主な出来事や事件についてまとめてみました。その結果、現在、台湾が置かれている現状を映し出しており、台湾の将来が透けて見えてくる気さえします。
蔡英文総統就任以降に起きた国際的な出来事や事件
台湾が国際民間航空機関(ICAO)の総会から閉め出された
2016年9月、国際民間航空機関(ICAO)の総会への招待状が届かずに、台湾はこの国際会議に参加することが出来なかった。(2013年の前回総会ではゲスト参加していた。)
サントメ・プリンシペ(西アフリカ)が台湾と断交&中国と国交樹立
2016年12月、西アフリカの小さな島国・サントメ・プリンシペは台湾と国交を断絶して、中国と正式に国交樹立しました。
中国で台湾のNGO関係者が拘束
2017年3月、中国で台湾の非政府組織(NGO)関係者・李明哲氏がスパイ容疑で拘束された。
世界保健機関(WHO)の年次総会(WHA)への参加問題
2017年5月、WHO(世界保健機関)第70回年次総会(WHA)への台湾の出席が認められなかった。(例年、オブザーバーとして参加していた。)
フィジー共和国の在台湾窓口が突如撤退
2017年5月、フィジー共和国が台湾に設置する外交窓口(在中国貿易・観光代表事務所)が、事前発表もないまま台湾から撤退した。
パナマが中国と国交樹立し台湾と交流断交
2017年6月、パナマは中国が掲げる「一つの中国」の原則を受け入れ、台湾とは断交し、中国と正式に国交樹立しました。
ドミニカ共和国が国交断絶
2018年5月、ドミニカ共和国が台湾と断交し、同時に中国と国交樹立をしました。
ブルキナファソ
2018年5月、ブルキナファソが台湾と断交し、その後、中国と国交樹立をしました。
UAEのエミレーツ航空が中華民国国旗バッジの着用禁止
2017年6月、アラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空が台湾人客室乗務員に中華民国国旗バッジの着用を禁止し、中国の国旗バッジを付けるよう要求していました。(その後、社内の内部ミスと訂正)
台湾の新南向政策
蔡政権樹立後、経済的結び付きを中国依存から東南アジア諸国やインドなどの南アジア、オーストラリア、ニュージーランドとの関係を強化している。
台湾への中国人旅客が激減
2016年5月に馬英九総統から民進党の蔡英文総統に政権交代して以降、中国から台湾への中国人旅行客が減少したというニュースがありました。
その後、更に中国の地方政府が台湾への観光旅行の許可件数に制限しているため(?)、中国からの観光客が激減したと報じられていました。
実際、どれくらいの減少なのかは、台湾政府の統計情報を元に、2016年の中国から台湾への旅行客の動向を検証してみました。
2016年の中国から台湾への旅客者数に関する統計情報
台湾政府(交通部観光局)が公開している情報によると、中国から台湾への旅客は、下記の2つに区分されています。
- 華僑旅客(華僑旅行客) ← 中国人はこちらの区分
- 外籍旅客(外国人旅行客)
2016年の中国から台湾への旅客者数
2016年の「中国から台湾への旅客者数」の概要は、以下の通りになります。
- 合計 : 3,511,734人
- 華僑 : 3,472,673人
- 外国人 : 39,061人
上記の通り、中国大陸から台湾に入国した外国人も1%強ですが含まれています。そのため、敢えて中国人を示す「華僑旅客(華僑旅行客)」に絞って、政権交代前後の中国人旅行客の動向を検証してみようと思います。
2016年と2015年の中国人旅行客の年間来台者数の比較
- 2016年 : 3,472,673人
- 2015年 : 4,143,836人
- 減少者数 : 671,163人
上記の通り、2015年と2016年の中国人の来台者数を比較すると、年間では671,163人減少したことになります。
政権交代前後での中国人旅客数の比較
2015年 | 2016年 | 増減者数 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
1月~4月 | 1,353,286 | 1,498,700 | 145,414 | 10.7% |
5月~12月 | 2,790,550 | 1,973,973 | -816,577 | -29.3% |
合計 | 4,143,836 | 3,472,673 | -671,163 | -16.2% |
上表の通り、台湾の政権が交代した5月を節目に、1月から4月までと5月から12月までの2つの期間に区分し、2015年と2016年の年間比較をすると、中国人旅行客の動向がよく分かります。
政権交代前の1月~4月までの4ヶ月間では、2016年の台湾への中国人旅客者数は、2015年の人数と比べると、145,414人の増加となっています。
一方、政権交代後の5月以降12月までの8ヶ月間の中国人旅客者数は816,577人の減少となっています。そして、年間ベースでの比較では、671,163人の減少という結果になりました。
同様に、増減率に注目してみると、1月から4月までの4ヶ月では10.7%の増加、5月から12月までの8ヶ月では29.3%の減少です。
この結果から推測されることは、もし政権交代していなければ、年間ベースでも10%程度は中国人旅客者数が増加していたとも考えられます。経済的には、機会の逸失とも思われます。政治と経済のバランスで難しいところですね。
中国観光客激減のまとめ
最後に、下表では2015年と2016年の各年度の月別に、中国から台湾への旅客者数の推移をまとめています。5月以降は中国人旅客者数が減少しているのがよく分かります。更に、もう一つ特徴的な動向は、2016年8月以降には中国人旅客者数が急減しています。
2016年7月に台湾で中国人の団体観光客を乗せたバスが火災になり、全ての乗客が死亡してしまうという事故が発生しました。その翌月から中国人の台湾への観光旅行客が激減したわけです。中国政府からすれば、これで台湾への経済的制裁とも捉えられる、台湾観光の制限に大義名分が出来たとも考えられます。
このような事情により、台湾の観光業界では中国人観光客の激減を受けて、経済的ダメージを受けているのが現状です。ところが、台湾への外国人旅行者数の総数は2016年も増加し続けています。
これは中国人旅行者数が減少した反面、その他の日本、韓国、東南アジア諸国からの旅行者数が増加し続けているためです。そのあたりの事情は、また別記事にしたいと思います。
蔡政権誕生以降に起きた出来事から分かることとは?
台湾の国際問題に関して、中国が少なからず関係している出来事や事件について、まとめてみました。
上記の出来事で共通していることは、中国が関係しているということと、中国が関係している国際機関に関連しているということです。
この間に最も大きな衝撃を与えた出来事は、パナマが台湾との国交を断絶し、中国と国交を樹立したことでしょう。
台湾では大きな衝撃として報道され、蔡総統は国内外に「圧力に屈しない」という台湾のスタンスをアピールすることが精一杯だったように感じました。
実は、2016年末にも、西アフリカの国が、同じように台湾と断交し、中国と国交樹立をしています。
ICAOやWHOの国際機関では、中国が背後で圧力を掛け、台湾を閉め出すことで、中国が主張する「一つの中国」原則を、国際社会に誇示し、国際機関を通して台湾に圧力を掛け続けています。
また、小さな事件ですが、台湾のNGO関係者(元民進党職員)が、スパイ容疑で中国で拘束される事件も起き、個人レベルでも、台湾への圧力を示そうとしているように受け取れます。
中国が推し進めようとしている経済戦略の「一帯一路」は、政治的にではなく、経済的に台湾に圧力を掛ける格好の材料になっているのかもしれません。
それが、UAEのエミレーツ航空の中華民国国旗のバッジ着用を禁止した事件に繋がるのかもしれません。アラブ諸国も経済面を重視すれば、中国を敵に回すことはマイナスでしかありませんからね。
台湾の国内外で何が起きているのか?
このように時系列で台湾に関連する国際問題を並べてみると、中国が国際機関を通じて、「一つの中国」という考え方を、世界に認めさせる政治的圧力を掛けていることは明らかでしょう。
そして、中国は今や経済力を武器に、台湾と正式に国交があった国を台湾から切り崩しに掛かっているのもよく分かります。台湾との断交という流れは、今後も続くのだろうと容易に予測できます。
実は、このような国際問題が明るみになり、台湾国内では、台湾独立を目指す「時代力量」という政党が、台湾独立へと仕向けるために蔡政権に台湾国内からも圧力を掛け始めています。
国内外から、板挟みになった蔡政権は行き場を失いつつあり、国内問題も山積する中で、現政権の支持率は一年前と比べると急降下しているのが現状です。
国際問題に目を向けると、今後、台湾は更に国交断絶などの流れが強まることになれば、中国の主張する「一つの中国」の圧力に屈するのか、独立の色を強め、国際社会から更なる孤立を深めることになるのかの選択に迫られそうな気配を感じます。いずれにしても、台湾国民にとってはマイナスにしかならない選択です。
つまり、あまり考えられるシナリオではありませんが、中国との両岸関係を重視し、前政権の敷いたレールに再び立ち返るのであれば、蔡政権が主張してきた方向性を変えることになり、国の威信に大きなダメージになります。これでは、台湾国民(民進党&時代力量寄りの人)も納得できないでしょう。
一方、時代力量が主張するような「台湾独立」を明確に表明してしまえば、中国が更なる政治的、経済的な圧力を掛けてくることでしょう。そうなれば、将来的に台湾国内の経済に大きなダメージを及ぼす結果になることが予測できます。台湾の全国民は経済低迷による不景気には不満しか抱かないことでしょう。
台湾の将来はどうなるのか?
蔡政権は窮地に追い込まれつつありますが、このような状況は政権発足当時から予測できたことでもあります。これが政権にとって想定内の事態であれば、次の一手を打つ手立ては出来ているはずです。もし、これが想定外の出来事であれば、蔡政権の外交力の弱さや国際感覚の低さを露呈したことに他なりません。
私の実感としては、現在の蔡政権は浮き足立っているようにしか見えません。蔡英文さんは人間的には非常に清廉潔白で政治理念がシッカリしているように見えますが、政治家としての腹黒さやずる賢さが足りないのではないかと感じます。
今後も、世界レベルで中国の経済力が高まっていけば、確実に台湾は国際社会から剥がされていくことになることでしょう。そして、台湾の経済的優位性が低下するであろう時期には、形式的に中国に飲み込まれることはなくても、実質的に支配される時期が来るのではないかとも感じます。
コメント
パワハラと言うより露骨なイジメ!世界中も分かっているはずなのに、いじめっ子に意見できないのは本当に嘆かわしいです。
ついこの間まで正式国交がある国が26だったと思ったら、今や20になってしまいました。パナマ断交は(財政支援しているのに)裏切られた形になり非常に残念でした。
李登輝さんが言ってるように経済基盤を中国から早急に他へシフトしなければ、それこそ言いなりにならざるを得ない羽目になりますから、蔡英文さんには頑張って欲しい。外交は難しくても経済は死守して欲しいと切実に願っています。
いつもコメントありがとうございます。
>李登輝さんが言ってるように経済基盤を中国から早急に他へシフトしなければ、それこそ言いなりにならざるを得ない羽目になります…
そうですね。新南向政策で東南アジアなどの経済成長をしている国との経済交流を深めるしかないかもですね。
先進国でさえも中国のご機嫌を取り始めていることをみると、経済的に弱い国は政治的な発言力はほとんどないですし…。
中国に周囲の国から外堀を埋められてしまうと、台湾の将来に明るい未来は狭まっているように感じます。
まさに香港が返還されて20年の今年。習近平もいま香港を訪問していますね。
もともと50年間は一国二制度の約束だったのに、既になし崩し的にその約束も反故されつつ有ります。台湾へも常に飴と鞭を使い分けていますが、それが彼らの常套手段!台湾にはなんとか踏ん張って欲しいです。今台湾で職探し中の私にとっても切実な思いです。先日台湾企業で応募したら勤務地は大陸になりそうとの事でお断りしました。大陸ならば求人はあるのですが(嫌いなので)断り続けています。台湾ではなかなか希望に合致する求人が出てこないのが現状です。
いつもコメントありがとうございます。
外交に関しては良くも悪くも中国はしたたかな国です。
台湾でよい会社に巡り合えると良いですね。
もう使われていると思いますが、日系の人材紹介会社に登録すれば、台湾勤務で日系企業を紹介される可能性が高くなります。
就職活動頑張ってください。
支那経済はすでに崩壊、 支那 GDP 発表は 嘘です。
貨物輸送量 、発電量、 輸入量 全てマイナス成長です。
GDP の70%以上が 総固定資本形成( 主に 誰も住まない ゴーストタウン
,マンションを大量に建設) 個人消費は 20% 。異常な 経済状態です。 今までは安い人件費で世界の下請け工場として発展してきましたが 人件費が上がり外資は撤退。
現在は人民元を刷りまくってなんとかもっています。
コメントありがとうございます。
経済指標は中国に限らず、数値を盛っている可能性がありますので、あまり信用できませんね。
中国大陸の経済事情については詳しくありませんので、内部事情は控えますが…。
あくまで外部から見ているだけの話しですが、国内政策として「城鎮化」、国外政策として「一帯一路」、今後10年後の経済成長を見込んでアフリカ諸国への投資など、抜かりない国だなと思います。
台湾が独立できない原因は台湾人自身の責任だと思います 。台湾の若者を見れば 、この国に 将来はないな と思います。
歴史を知らない 、政治に無関心 、 学歴重視で 思考能力なし、 自分の力で考える力なし 、反日教育で シナ人化。
目先の利益にしか興味がなく 、自分勝手 自分のことしか考えていない 。
この国をもっと良くという志がない 。親は子供を甘やかし クソガキしかいない。 女尊男卑 で 台湾の男は 女の言いなり。 それが当たり前だと思っている女。
台湾人には もっと気合を入れて欲しいと思います。
コメントありがとうございます。
仰られている意見にほぼ同意します。
現在、学生の人は20年後には国の中心でバリバリ働き、社会を引っ張っていく年齢になっているはずです。台湾の大学生を見ていると、ほとんどの学生に言えることですが、「多くのことに関心を持ち、自主的に考え、将来のために行動する」という思考がほとんどないことに気が付きます。(この点で台湾で学ぶ中国人留学生に負けています)
昔の私も同じような学生だったのかもしれませんが…。日本の学生はどうかと反論されれば、今の大学生がどのような状況か分かりませんので答えようがないのですが…。