台中駅前地下通路のホームレスから見えてくる現在の台湾社会

台中市のホームレス(路上生活者)から現在の台湾社会を主観的な視点からレポートします。台湾の台鐵台中駅前には地下通路があり、特に冬場の寒い時期には、この地下通路には夕方近くなり夜もふけって来ると住む家のないホームレスが寒さを凌ぎ夜を明かすために集まってきます。そんな彼らの姿や道行く人たちの反応を少しだけ観察してみると、悲しい社会の現実が見えてくる気がします。

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台湾駅前の地下通路とホームレスの現状

台中駅前の地下通路は、台北の地下街とは比べものにならないくらい廃れたものです。むしろ、この地下道はあってもなくても問題ないような通路ですが、私はよくこの通路を使っています。それは、信号待ちをしたくないという単純な理由と、この通路はそれ程多くの人が利用していないため、むしろ信号待ちをするよりもスムーズに移動することができるという理由からです。

そんな地下通路では、特に冬になると夕方以降は多くのホームレスが集まってきて、どこからか布団や寝袋を持ってきて寝ている人が多くいます。彼らは、スチール製や紙製のお椀を自分たちの寝ている場所の横に置いて、僅かばかりの投げ銭を期待しているようです。そして、どういうわけか、彼らが寝ている頭付近には、お弁当、菓子パン、飲み物などが不自然に置かれています。これらの飲食物は、(政府からの援助もあり)何らかの慈善団体か、近隣の一般市民が恵んであげた物だということが、その場の状況から何となく透けて見えてきます。

 

一人のホームレスが何かを考えるチャンスを与えてくれた

そして、ある日、一人のホームレス(年齢は60歳くらい)の人が厳しい形相で冬の寒さに耐えているのを見て、なぜか目頭が熱くなってきました。なぜだろう、なぜだろう。私は地下道へ入る直前にコンビニの「買一送一」によりサービスで貰った1本のポカリスエットを無意識の内に彼に差し出していました。彼は、頭を下げて台湾語で何か言ったように聞こえましたが、私は理解できませんでした。私は軽く会釈をして、涙を見せないように、その場を後にしました。

なぜか、その一瞬に自分の親父の姿とそのホームレスの姿、そして自分の姿が重なったのかもしれません。(父親はホームレスじゃないけれど・・・)
そのホームレスにも家族がいるのかもしれないですし、兄弟や姉妹がいるのかもしれない。あるいは、子供や孫がいるのかもしれない。

彼は家族を捨てたのか家族に捨てられたのか、全く家族構成は分からないけれど、映画などでいつの日か見たことがある自分の記憶の中に眠っていた典型的なホームレスの姿がフラッシュバックして、子供を持つ親としての自分と親を持つ子としての自分が、どこかで結びついたように感じました。もし、あのホームレスが自分の親であったのならば、もしあのホームレスが自分の子であったのならば、もしあのホームレスが兄弟であったのならば、そんないたたまれない妄想が瞬時に頭の中を巡り、言葉では表現できない感情が私の涙腺を緩めたのかもしれない。

 

台中駅前のホームレスたちの実情

台中駅前だけでも、恐らく何十人ものホームレスがいます。彼らの多くは外見からは60歳以上だと思われ、彼らの中には男性だけではなく女性もいます。台中駅前のコンビニにもホームレスと思われる人たちがイートインコーナーの机にうつ伏せになり寝ていたりします。

彼らホームレスは、特に暴力や犯罪を犯すような危険性はないように感じます。ただ、外見を見る限り、服は酷く汚れており、足は真っ黒で、髪の毛はボサボサで、そのような人たちが屯している地下通路は異様な雰囲気を醸し出しています。台中駅前にも関わらず、この地下通路だけは、大阪西成区のあいりん地区を思い起こさせます。

 

経済的弱者への擁護と反論が出来るのは特定の人だけ?

しばしば、このようなホームレスは、勤労と税金のバランスを考える際には社会資本の議論を巻き込み批判の対象にもなります。つまり、なぜ働かないのか、働かないもの食うべからず、挙句の果てには社会から排除されるべき存在だと。一方で、日本国憲法第25条を持ち出し、彼らのような経済的弱者を守るためのセーフティーネットが必要で、そのためには政府の援助が必要だと主張する立場の人もいます。

まず、このような議論をする権利があるのは、少なくても社会の中で一度は経済的強者になったことがある経験と一度は経済的弱者になったことがある経験の相反する過去を持っている者だけだと思っています。もしそうでなければ、相反する立場の人たちの考え方をなかなか理解できるものではないからです。

それでは、私はと言えば、経済的強者になったことがあるかといえば、大手を振ってあるとはいえないですが、そのような精神状態になったことはあります。年に何回もファーストクラスの飛行機で海外出張へ出向いていた時は、会社のお金を使っていたにも関わらず、思い出すと本当に恥ずかしい話ではありますが、経済的強者の立場から経済的弱者を上から目線で見ていたときもありました。

一方で、あまり言いたくはありませんが経済的に窮した時期もあり、どうにもならずに食事も喉を通らないような日々を送ったこともあります。それ故に、私は両極端の立場に足を踏み入れた経験があることを考えると、少しばかり物申してもよいのではと思います。

 

マイナスをゼロに戻しゼロをプラスへ転換する方程式

この議論に対する私の立ち位置は、全くのニュートラルだ。
彼らホームレスは、なぜ働かないのかという考えではなく、なぜ働くチャンスを与えてあげないのか。
彼らは、なぜホームレスになってしまったのかという考えではなく、なぜホームレスを抜け出せなくなっているのか。
周りの人たちは、過剰なほどに家族には愛情を注ぐのに、なぜ彼らホームレスに無関心なのか。

社会から逸脱してしまった人たちの中には年齢的な理由や精神的なゆとりの欠如により、社会へ戻るチャンスに恵まれなくなってしまった人たちがいるのも事実です。そのような人たちの最低限の生活を維持するために社会コストである血税を使うのは理不尽だと言う考えもあると思います。

それでも、僅かな援助で彼らの安定的な生活が保障できるのであれば、政府や民間を問わず投資をすれば、回りまわって社会資本はプラスへ向かうのではないかと思います。

 

「ビッグイシュー」と言うビジネスモデルが社会に問いかけていることは?

イギリスから始まった「ビッグイシュー」というストリート雑誌の販売モデルをご存知でしょうか?

ビッグイシューとは、ホームレスが販売する雑誌ですが、簡単に言えば、ホームレスが販売できる雑誌を駅前などの人通りの多い場所で売ると、販売価格の50%がホームレスの収入になるという仕組みです。ホームレスが社会復帰を果たすことを目的に、現在ではビジネス化されています。
日本でも佐野章二氏が始め、当初は日本ではこのようなビジネスモデルは成功しないのではないかと目されていましたが、現在では大都市を中心とした駅前では彼らの姿を見られるようになりました。

台湾総統選挙で街宣カーのスピーカーが虚しく鳴り響く中、社会から逸脱したホームレスたちは何を考え、どこへ向かうのでしょうか?

 

最後に

結局、私は何が言いたかったのか。
現在の台湾の社会には富める者と経済的に窮している者が混在し、その貧富の差は日本とは比べ物にならないものです。

台湾では、富める者は経済的弱者の立場が理解できないため、ホームレスなどの社会的弱者には無関心になり、社会的弱者は社会との関わりから、ますます離脱して行き、社会復帰が難しくなっている社会が出来上がりつつあるのだと思います。社会とホームレスとの接点を繋ぐチャンスを作るのは、政府を含めた経済力のある立場の者であり、社会的に影響力のある立場にある者であるはずです。いつかホームレスが安心して生活できる社会が醸成される日が来るのを願ってやみません。

最後に付け加えておきますが、このブログでは偏った情報や個人的な先入観を出来るだけ排除して、現在のそのままの台湾の情報を多くの方へシェアする方針で記事を公開していますが、今回は少し主観的な感情論が入ってしまっていることをご了承ください。

コメント

  1. Beer より:

    感銘いたしました。
    親が子供(弱者)を守る。これは貧富の差に関係なく誰もが思っている感情だと思います。それと同じように経済的な弱者であるホームレスを守る。
    これはなかなか実現されませんね。
    私は、初めて訪れた真冬の中国で、子供を抱っこして物乞いをしている母親を見たときに、思わずポケットの中のお金をすべて渡しました。
    若い頃には出来なかったと思いますが、人生を歩むと視野が広がってきますね。
    異国で大変ご苦労なされていると思いますが、頑張ってください。
    いつも楽しく拝読させていただいています。

    • いいぞっ より:

      コメントありがとうございます。
      上記記事でのお弁当などのホームレスへの支給は台湾政府の援助もあるようです。
      ビッグイシューの間接的サポートは、弱者への物質的な提供ではなく、生き方や路上生活から抜け出すチャンスを提供しているのではないかと思います。まさに、弱者の視点に立った適切な支援だと感じます。
      今後とも当サイトをよろしくお願いします。

  2. tomo より:

    いいぞ様、涙ぐまれたとの事に、重いものを感じました。
    そのお気持ちが、その涙に少し、私も心動かされました。

    日本にも居ますね。台湾にも。
    駅で、台湾のホームレスがホームに入ろうとして、
    駅員から、締め出され、倒れて、少し手を怪我して
    泣いていたのを覚えています。

    かたや、ドイツでは北アフリカの難民が集団で女性を乱暴し、
    逮捕されたら、俺はメルケル首相に招かれてきたんだ、丁寧に
    扱えと怒鳴ったそうです。弱い人に優しいと、つけ込む。
    困ったものです。

    • いいぞっ より:

      いつもコメントありがとうございます。
      経済的弱者に対して与えるだけの支援も時には必要ですが、経済的強者や社会的強者が経済的弱者に対して、すべき支援とは彼らを社会の一員へと導いてあげるソフト面での支援だと思います。
      ビッグイシューの事例のように、後ろではビジネスが絡んでいて、貧困ビジネスと言われようが、「売り手・買い手・世間」の三方良しの理屈が通っていればそれでいいと思います。
      日本でも与えるだけの支援が多すぎますね。

  3. Meow より:

    初めまして、台湾に移住して16年の者です。私が来た頃は、ホームレスはかなり少なかった印象がありますが、経済状況のせいでしょうか、前よりよく見るようになりましたね。でも台中にそんな場所があるとは知りませんでした。今週末の寒波では、慈善団体や政府が動いて、屋内環境を提供しているとニュースで見ました。
    ビッグイシューは台湾でも売っていますね。有名なグラフィックデザイナーアーロン・ニエが表紙をデザインしていて、日本のものよりかなりカッコイイと思います。私も見つけたら買うようにしています。http://www.bigissue.tw/
    台湾人は親切で温かい人が多いですが、東南アジア系移民への偏見や、ホームレスへの無関心、救急車への対応のまずさなど、問題もいろいろありますね。

    • いいぞっ より:

      はじめまして、コメント頂きありがとうございます。
      私が初めて台湾を訪れたのが20年位前ですが、ホームレスも貧富の差も現在の状況ではなかったように記憶しています。街の至る所でゴミ箱を漁って、ごみ(資源)回収している高齢者が多いことは台湾社会の現状をよく示していると思います。

      ビッグイシューは台湾でも販売されていますね。残念ながら台中市内では販売している人を見たことがありません。台北駅前であれば販売しているのかもしれませんね。是非このような一般市民と経済的弱者を繋ぐ社会の流れが台湾全土に拡がって行って欲しいと思います。

      今後とも当サイトをよろしくお願いします。

  4. okn より:

    はじめまして
    普通の臺灣好きの東京在住のおっさんです。
    来月武嶺に登るために埔里台中バスを調べていてこちらに来ました。
    最近台中も旧市街がだんだん寂れていってるように感じます。
    地下道も台湾の急激な発展と引き換えの一側面なのでしょうが優しい社会になることを願っています。
    これを機にこちらの読者を楽しんで行きます。
    面白い記事をありがとうございます

    • いいぞっ より:

      はじめまして、コメントありがとうございます。
      武嶺に登られるとのこと、楽しい台湾の旅になるといいですね。
      台中は新たな都市開発と昔なじみの古い街並みが混在している面白い都市だと思います。
      そのためか、社会の貧富の差も垣間見ることになります。
      今後とも当サイトをよろしくお願いします。

  5. MOZU より:

    はじめまして。
    先月台北に移住したばかりの者です。

    台北でも似たような光景を見ることができます。
    昨夜、信義区周辺のコンビニの前で初老の女性ホームレスを見た時、
    何故かふと今は亡き自分の祖母の面影を見てしまい、複雑な心情になりました。
    まさに同じような状況に陥りました。
    どうしたらいいのかと悩み、とっさにコンビニに入り食事を買ってあげようとか
    いろいろ悩んだのですが結局思いつかず、
    最終的には中国語を話せない私は女性の肩を叩き、
    你好と声をかけ、クシャっと丸めたお金を手渡しました。
    女性は謝謝と微笑み何か私に言っていました。
    でも、今も何か漠然ともやもやが残っています。
    台湾は優しい人が多く素晴らしい国だと感じる反面、
    この国が抱える複雑な問題を感じました。

    そして今朝、台湾のホームレス事情を調べようと検索したところ
    ここにたどり着き、拝読させて頂きました。
    非常に感銘を受けました。

    緩やかな景気回復をしていると言われる台湾経済ですが、
    もう随分長い間芳しくない状況が続き
    台湾社会の悲しい一面を見たような気がします。

    非常に考えさせられる出来事でした。

    • いいぞっ より:

      コメントと感想ありがとうございます。
      このようなホームレスの方たちを見て、どう感じるかは人それぞれだと思いますが、一人の人間として同情の気持ちが生まれるのはごく自然のことかと思います。
      改めて彼らに対する私の気持ちや考えをまとめておきます。

      ・彼らの家族はどうしているのか
      ・彼らは如何にしてホームレスになってしまったか
      ・自分の家族のように感じ感傷的になった
      ・何かしてあげたいが、何をして良いものか分からない
      ・ホームレスから脱出するためには与えるだけではダメ
      ・最低限、自活できるだけのお金を稼ぐ手段へと誘導する必要がある

      政権交代が実現したため今後少しは政策の転換があるかもしれませんね。

  6. noristan より:

    遅ればせながら、記事を拝読しました。今年3月に台湾旅行を予定しており、いろいろと調べている中、こちらのブログを知った次第です。

    もう7年前の記事になりますが、現在はどのような状況なのでしょうか。コロナ対策が優れているというニュースで、台湾はグダグダの日本よりも高い評価を得ていて羨ましいと思っていました。日本もますます格差社会が激化していることを懸念されていますが、これは世界的な傾向なのか、今後の行く末が心配なところです。

    グルメやエンタメ、親日など、台湾を明るいイメージでとかくアピールする記事が圧倒的に量産される一方で、過去の歴史や現状の社会問題などにも目を向けたいと思っていた矢先に、とても考えさせられるこちらの良い記事に巡り会えたことに感謝しております。

    • いいぞっ より:

      コメントありがとうございます。
      台中はしばらく離れていますが、現在は台鉄台中駅前は再開発されて、昔の趣がなくなった感じだと思います。
      良く言えば、きれいで観光しやすくなったとも言えるかもしれませんね。

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