私が大学での日本語の授業で時々使っている「アイスブレイク」の方法について、台湾現地からレポートします。台湾の大学で日本語を教えていますが、ややもすると授業内容がマンネリ化してしまい、授業中の学生の学習意欲や意識が散漫になってしまったり、逆に、学期の初めの頃は教師である私だけではなく空気が張り詰めたような状態で、学生も緊張感に満ち溢れている場合もあります。そんな折に、活躍してくれるのが「アイスブレイク」です。
アイスブレイクとは?
アイスブレイクとは、初めて出会った人に対しては少なからず緊張した空気が張り詰めますが、そのような緊張をほぐして緩和する手段や方法のことです。そうすることで、お互いのコミュニケーションを取りやすくしたり、参加者の気持ちや態度を積極的にさせ活発にすることが出来るというわけです。
アイスブレイクは「アイスブレイキング(ice breaking)」と呼ばれることもあり、人の緊張や不安を「氷(ice)」に例え、一塊のカチカチに凍った氷をピックのようなものでバラバラに壊し、溶かすというイメージです。
各種教育の場でも頻繁に利用されているのみならず、企業などの社員研修でも非常によく利用されています。私もかつて参加した、オリエンテーションや従業員研修などでも体験したことがあります。一般的には、各イベントの開始時に緊張を緩和するために行われることが多いですが、休憩時間を挟んで研修などへの意識や注意力を再度向けるために行われる場合もあります。
私がアイスブレイクを大学の日本語教育の場に導入するまでの経緯
何事も最初は緊張することが多いものだと思います。例えば、学期初めの最初の授業では教える側も学生側も少なからず緊張感に満ち溢れています。学生の多くが緊張していると授業も上手く進められなかったり、逆に教えている教師の私まで緊張が増してくる場合さえあります。そんな中、授業のはじめに、軽く冗談でも挟んで学生から笑いが起こると、一気に教室内は和んだ雰囲気に包まれ、授業を進め易くなります。
意図的にアイスブレイクを利用して、クラス内の雰囲気をコントロールしようと考えるまでに1年くらい掛かりました。と言うよりも、30人、40人、あるいは50人以上いる教室の中で自分なりの授業をすることに慣れるまでに1年くらい掛かり、授業の進め方に慣れた頃に、意識して授業の雰囲気をコントロールしようという心の余裕が出来始めたと言うのが本音です。
初めは、授業開始時に冗談でもかまして、学生から笑いを取ろうと必死に考えたりしていました。この場合は、例えばクラスの学生数が40人いたとすると、40人に理解できるジョークで、尚且つ40人の笑いの壷に嵌るものでなければ、アイスブレイクは成功しません。そのため、最初の内は私が意図した冗談が理解されないばかりか、理解されたとしても、ごく一部の学生だけが半笑いになるだけで、アイスがブレイクどころか、アイスは更に凍りつく有様でした。
日本語教育の場で利用できそうなアイスブレイクの方法は?
そこで、アイスブレイクに関する情報を収集することから始め、それらのアイスブレイクの方法の中から日本語学習の教育の場に合いそうなものを吟味しました。スピーカーが気の利いたジョークで、その場の緊張感を緩和するのは常套手段ですが、外国人である日本語学習者にも理解されるようなジョークをポンポン話すほど能力がありませんでした。しかも、ジョークがスベッた時のダメージは尋常ではありません。そのため、授業の導入で意識して、このようなアイスブレイクをするのは止めました。
私が巡り巡って辿り着いたのは、学生と一緒に考え学生を巻き込みクラスを一つの方向へ向けるようなアイスブレイクの方法です。ただ単純に、授業の始まりにクラス内の雰囲気を和ませるだけではなく、学生もアイスブレイクに参加してもらい、その日の授業のテーマにも合致した方向へ学生の注意力を向けることが出来るような方法が理想型です。
KJ法とブレインストーミングを利用したアイスブレイクの方法
具体的には、KJ法やブレインストーミングという方法の一部を活用します。例えば、まず、その日の授業のテーマを掲げて、そのテーマから連想することを、予め用意したポストイットやカードに、各学生に書かせます。一つのカードに一つの言葉あるいは文章を書いてもらいます。配るカードはクラスの学生数により1人一枚にしたり二枚にしたりします。その後、カードを回収して、同じようなもの同士をグループ化して、発表しながら授業の導入にします。
ここで重要なことは、学生から出してもらったカードは満遍なく発表することと、グループ化をその日の授業の流れに並べ替えることです。このグループ化と並べ替えを間違えると、その後の授業を上手に進めることが出来なくなる場合もあります。
学生にとっては、自分が書いたことが発表されることで授業に参加しているという意識を持たせることができ、教師側からするとテーマに対する学生の興味・関心を知ることが出来ます。こうして情報の刷り合わせと共有化をすることでクラス全体に一体感が生まれます。そこで、本題に入り、授業を進めると学生の授業に対する注意力も高まるという効果が望めます。
記憶力ゲームを利用したアイスブレイクの方法
ズバリ「積木式記憶力ゲーム」です。まず、クラスの学生の人数により、5~8人程度のグループに分けるか、あるいは席順により縦方向を一つのグループにしたりして、何組かのグループに分けます。そして、その日の授業のテーマに合った単語を出来るだけ多く頭に浮かべてもらいます。例えば、形容詞の学習の場合は、下記のような手順で進めます。
- 最初の人が「きれい」と言い、次の人にバトンを渡します。
- 二番目の人は「きれい」→「かわいい」と言い、次の人にバトンを渡します。
- 三番目の人は「きれい」→「かわいい」→「とおい」と言い、次の人にバトンを渡します。
上記のように、次々と形容詞の単語を記憶していくというゲームです。このゲームは予習の場面でも復習の場面でも利用できるゲームになります。つまり、予め単語を予習してきてもらった時には、暗記する単語やページを指定しておけば、予習をしてくる確率が高くなります。一方で、既習の場合は、復習のための手段として、この記憶力ゲームを活用することも出来ます。
このゲームを利用する場合は、教師はグループを作るまでの作業で終わり、ゲームの審判は別のグループが自然としてくれるため、教師は盛り上がるのを見ていればよいだけですので非常に助かります。そして、最も多く回答が続いたグループが優勝で、最下位のグループにはちょっとした罰ゲームを与えてもよいでしょう。
日本語教育以外のあらゆる場面で利用できるアイスブレイク
以上、大学の日本語教育の場で活用できるアイスブレイクの具体的な方法を2つだけ紹介してみました。実は、日本語教育の場面だけではなく、このようなアイスブレイクの方法は、実際の企業研修などでも頻繁に利用されている方法でもあります。例えば、企業研修などで自己紹介代わりに、名前を覚えてもらうために「積木式自己紹介」などは非常に有名かもしれません。上記の積木式記憶力ゲームと同じように、下記のように自己紹介をします。
- 最初の人が「ゴルフが好きな鈴木です。」
- 二番目の人は、「ゴルフが好きな鈴木さんの隣の、野球が好きな佐藤です。」
- 三番目の人は、「ゴルフが好きな鈴木さんの隣の、野球が好きな佐藤さんの隣の、食べ歩きが好きな田中です。」
このようなアイスブレイクは、多くの場面で利用できると思いますので、是非試してみてはいかがでしょうか。